木曜日, 3月 28, 2024
ホームイベント特別公演で見せた”伝統と革新”の真価。上妻宏光、ソロデビュー20年の集大成

特別公演で見せた”伝統と革新”の真価。上妻宏光、ソロデビュー20年の集大成

三味線プレイヤーの上妻宏光が10月24日、東京・Bunkamuraオーチャードホールでソロデビュー20周年特別公演『上妻宏光 Concert ”伝統と革新” 』を開催した。10月2日に兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールで同コンサートを開催し、SING LIKE TALKINGの佐藤竹善、元THE BOOMの宮沢和史、アコースティック・インストゥルメンタル・ユニットTSUKEMENがゲストで出演。東京公演にはゲストに由紀さおり、東儀秀樹、押尾コータローが参加。上妻と共演しコンサートを盛り上げた。感染予防対策を徹底した上で通常のキャパの半分で行い、ソロデビュー20年、三味線人生約40年の集大成とも言えるアンコール含め全18曲を熱演した。東京公演の模様を以下にレポートする。

特別公演で見せた”伝統と革新”の真価。上妻宏光、ソロデビュー20年の集大成のサブ画像1

 緊急事態宣言も解除され、渋谷の街にも少しずつ活気が戻ってきたことを感じさせる。その中で開催された『上妻宏光 Concert ”伝統と革新” 』の会場となったBunkamuraオーチャードホールに向かう道中も、上妻の三味線の音色を楽しみに訪れるファンで賑わっていた。
 開演時刻になり、オープニングを飾ったのは2018年にリリースされたアルバム『NuTRAD』より、伝統楽器と最新の音楽を融合させた攻めの一曲「AKATSUKI」で特別公演の幕は開けた。伝統と革新を感じさせる楽器を1曲目に持ってきたことで、ソロデビュー20年のアティテュードをひしひしと感じさせてくれた。続いての「BEAMS-NuTRAD-」で上妻はステージを動きながら、三味線の鮮烈な音色を繰り出す。このダンサブルなサウンドに観客の手拍子も加わり、“生”ならではの一体感を作り出した。

 

 この日、初めてのMCで上妻は「ようやく開催できました」と、コンサート開催への思いの丈を観客に伝えた。新型コロナ感染症によるパンデミックで開催延期を余儀なくされた公演。その想いがこの一言に集約されているように感じた。そして、この日訪れた観客に感謝を伝え、アルバム『NuTRAD』収録の「Zipangu」、そして、1stアルバム『AGATSUMA』から「夕立」の2曲を立て続けに演奏。和と洋の要素を見事に融合させ、美しいアンサンブルを響かせた。楽曲を盛り立てる照明の演出も加わり、グッとその世界観に惹き込まれていく感じは、この会場にいるからこその体験で、趣を変えながらも終始コンサートを通してこの感覚があった。
 伊賀拓郎(Pf)による静寂に寄りそうようなイントロから、上妻の情感を込めた歌声が印象的だった熊本県民謡の「田原坂」は、十代の頃から思い入れのあり、歌い続けている楽曲だ。続いて、はたけやま裕(Perc)との1対1の演奏で魅せた「ONE TO ONE」は、お互いのグルーヴを感じながら気持ちを高め合い、一つの楽曲として昇華させていく。上妻の流れるような鮮やかなフィンガリングにも注目が集まる。

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 さらに、一期一会の演奏をより強く感じさせた「FUN」。1部の最後を締め括る1曲として披露された同曲は、サポートメンバーのDJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺ、伊賀拓郎、渡邉裕美(Ba)らのソロセクションを設け、各々の演奏スキルと楽器の持つポテンシャルを存分に発揮。そのスリリングで躍動する演奏によって、ボルテージは最高潮のなか1部を終了。伝統と革新の真価を示したような熱いステージだった。
 第1部の興奮冷めやらぬかなか、休憩を挟み第2部がスタート。紋付袴に衣装を変え、上妻のベーシックにある津軽三味線の民謡から「津軽よされ節」を披露。上妻の威風堂々とした姿からも会場の空気が変わるのを感じられた。三味線の音、魅力を伝えたい、そんな想いが存分に込められた演奏がホールの隅々まで響き渡る。

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 そして、上妻が生前に三味線を指導していた故・志村けんもお気に入りの1曲として志村自身もステージで演奏していたという上妻のオリジナル曲「紙の舞」を演奏。三味線一本で奏でるドラマチックな展開は、様々な情景を我々に届けてくれるようだった。
 ここで上妻は一旦ステージを後にし、サポートメンバーによる演奏で雅楽の代表曲から「越天楽弦奏曲」を届けた。その白熱の演奏に続いて、ゲストコーナーへ。
 その1人目として雅楽師の東儀秀樹が登場。歴史は違えど日本の伝統楽器同士のコラボに東儀とのコラボに期待感が高まるなか、切ないメロディが印象的な「Tears」を演奏。1000年以上の歴史を持つ篳篥(ひちりき)のシズル感のある音色は、当時と変わらぬ風をこの場所に運んでくるようだ。MCでは東儀との世界を回ったツアーでの思い出話で笑いを誘う。その中で先ほどサポートメンバーが演奏した「越天楽弦奏曲」の話題になり、同曲を東儀を加えて急遽少しだけ披露する嬉しいサプライズもあった。東儀と最後に届けたのは疾走感のある「獅子の風」。上妻の生き生きとした正に風を感じさせてくれる演奏と、伸びやかな篳篥の旋律のコントラストで魅了。篳篥と三味線という本来は交わる事のない伝統楽器同士の貴重なコラボレーションとなった。

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 続いては、ギターの可能性を広げた功績者である押尾コータローがステージに登場。メジャーでのキャリアも近い2人。押尾は上妻のことを“アガッチと呼ぶほどの仲だ。デビュー当時の話題で盛り上がるなか、2人のみでの演奏は初めてという「Wonder」を披露。2人のみの演奏とは思えない色彩豊かなプレーで観客の目と耳を釘付けにすれば、もう一曲、押尾のオリジナル曲「GOLD RUSH」を伊賀拓郎(Pf)も参加し、このコンサートのためのスペシャルバージョンで演奏。押尾の繊細でワイルドなギタープレーに、上妻も三味線でアグレッシブなライトハンド奏法など、トリッキーなテクニックで応える場面も。同じ弦楽器で型破りなスタイルを持つ2人のマリアージュ、音楽を通しての会話を楽しんだ。

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 最後のゲストは歌手の由紀さおり。艶やかな着物姿で登場し、まずは青森、津軽との繋がりも深い曲「りんご追分」を歌唱。キャリア50年以上を最前線で歌い続けてきた存在感のある歌声と、上妻の三味線との相乗効果は予想をはるかに上回るパフォーマンスを見せた。トークコーナーで他の人にはない表現を追求する由紀は、「伝統と革新」をテーマに活動する上妻から良い影響をもらっていると明かす場面も。お互いのリスペクトを感じさせたトークに続いて、「車屋さん」を現代的なアレンジで披露。EDMサウンドを施された同曲を、由紀はビートを身体で感じながら粋な歌声を届けた。本編ラストは、この日出演したゲストも呼び込み「宴」を演奏。人との繋がりを大いに感じさせてくれた第2部は大団円を迎えた。

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 そして、アンコールを求める手拍子がホールに鳴り響く。その手拍子に導かれるように再びステージに登場した上妻は、このコンサートを締め括る曲として、津軽三味線といえばこの曲という「津軽じょんから節」を最後に届けた。三味線人生を振り返るような1音1音に魂を込めた旋律。並々ならぬ想いを感じさせる威厳のある演奏は、ここまでの集大成と呼ぶに相応しい迫真のパフォーマンスで、またここから新たな旅の始まりを予感させてくれるものでもあった。
 音楽活動への矜持を見せたソロデビュー20周年特別公演。『伝統と革新』という壮大なテーマの中で、上妻はどのような新しい音を届けてくれるのか、次のステージを楽しみに待ちたい。
 なお、公演のセットリストを再現したプレイリストも公開されているので、併せてチェック頂きたい。

■公演セットリスト
『ソロデビュー20周年特別公演 上妻宏光 Concert ”伝統と革新” 』
10月24日@東京・Bunkamuraオーチャードホール
01.AKATSUKI
02.BEAMS-NuTRAD-
03.Zipangu
04.夕立
05.田原坂
06.ONE TO ONE
07.FUN
08.津軽よされ節
09.紙の舞
10.越天楽弦奏曲
11.Tears
12.獅子の風
13.Wonder
14.GOLD RUSH
15.りんご追分
16.車屋さん
17.宴
EN1.津軽じょんから節

■セットリストプレイリスト
https://va.lnk.to/xHUJFb

■コンサート・イベント情報
『05 Anniversary Tour上妻宏光“Standard Songs”feat.佐藤竹善 -三味線とPIANOで奏でる名曲達-』
【2021年】
≪愛知公演≫ 11月6日(土)
電気文化会館ザ・コンサートホール 開場15:00/開演15:30
問い合わせ:キョードー東海 TEL:052-972-7466 (月-土10:00〜19:00/ 日祝休み)

【2022年】
≪東京≫3月5日(土) 開場15:00 / 開演15:30
渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
キョードー東京 TEL:0570-550-799(平日11:00〜18:00/土日祝10:00〜18:00)

≪兵庫≫3月26日(土)
兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール 開場15:00 / 開演15:30
キョードーインフォメーション TEL:0570‐200‐888(平日・土曜日11:00~16:00)

■リンク
HP http://agatsuma.tv/
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCogVsj5bQejTdyU5WqHpzlA
コロムビアオフィシャルサイト https://columbia.jp/artist-info/agatsuma/
Twitter https://twitter.com/h_agatsuma
TikTok https://vt.tiktok.com/UCdgp1/

■プロフィール

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1973年茨城県出身。いばらき大使、日立大使。
6歳より津軽三味線を始め、幼少の頃より数々の津軽三味線大会で優勝する等、純邦楽界で高い評価を受ける。
ジャズやロック等ジャンルを超えたセッションで注目を集め、2000年に本格的にソロライブ活動を開始し、
ニューヨーク、ニューオリンズで地元ミュージシャンとセッションも行う。
帰国後デビューアルバムの制作に入り、2001年1stアルバム『AGATSUMA』をリリース。
同アルバムと、6thアルバム『○-エン-』で「日本ゴールドディスク大賞 純邦楽アルバム・オブ・ザ・イヤー」を受賞する。
2003年にリリースされた2ndアルバム『BEAMS ~AGATSUMAII』は全米リリースされ、アメリカ東海岸ツアーも行う。
これまでEU、アフリカ等、世界30ヵ国以上で公演を行っており、ハービー・ハンコック、マーカス・ミラー等との共演も果たしている。
そのほかNHK 大河ドラマ「風林火山」(作曲:千住明)の紀行テーマを担当。
また上川隆也主演舞台「その男」への楽曲提供や、テゴマスのアルバムに楽曲提供するなど各方面のアーティストや舞台、映画、ドラマ他、様々なシーンへの楽曲提供でも活躍している。
2013年には内閣総理大臣主催の「TOKYO2020公式夕食会」、「第5回アフリカ開発会議 公式首脳晩餐会」において、日本を代表して演奏を披露。
近年では歌舞伎の本公演(主演:市川海老蔵)に津軽三味線奏者として初めて参加、音楽を担当するなど伝統芸能との交流も深めている。
2016年、唯一の愛弟子である志村けんと「キリン 氷結®」のTVCMにて、師弟による出演。
2017年、カザフスタン「2017年アスタナ万博」で日本文化を世界へ発信する上妻宏光プロデュース公演を行い、2019年から中国で単独公演の実施や大型フェスへの出演。
2020年、オリンピック聖火リレーに地元茨城での聖火ランナーとして決定している。
伝統をふまえながら時代に応じた感性を加え、ジャンルや国境を越える活動で津軽三味線の”伝統と革新”を追求し続けている。
また、日本全国の小学校において日本の伝統音楽の魅力を伝える授業を行っており、
次世代への文化伝承にも力を注ぐ多岐にわたる活動は、三味線奏者として開拓の第一人者と言える。
2020年ソロデビュー20周年を迎え、3月4日にはソロデビュー20年記念アルバムとして、
津軽五大民謡を三味線で綴る古典アルバム「 TSUGARU 」を発表。
同日、2014 年にニューヨークにて矢野顕子とのコンサート共演に始まったコラボレーションユニット「やのとあがつま」のデビューアルバム「 Asteroid and Butterfly 」をリリース。

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