アニメ『ちはやふる』特撮『仮面ライダーセイバー』幅広いジャンルの音楽の祭典/合同会社P&ME
2021月12月3日、東京は中野区の「なかのZERO大ホール」で「作曲家 山下康介 コーラスとオーケストラの世界」が行われた。
NHK朝の連続テレビ小説『瞳』(2008)や『花より男子』(2005)、特撮ヒーロー作品『仮面ライダーセイバー』(2020)、『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011)、ゲーム「信長の野望シリーズ」(09ほか)、アニメ『ちはやふる』(11,13,19)など数々の代表作を持つ、作曲家・山下康介の初の個展。公演に先駆けてはクラウドファンディングが実施され、期日前に目標金額を突破するなど、多くのファンの注目を集めていたことが証明される中、当日の公演を迎えた。
演奏は、冨田勲、佐藤勝、渡辺宙明、渡辺岳夫、菊池俊輔など、映像音楽で知られる作曲家のコンサートを多数手がけてきた「オーケストラ・トリプティーク」、コーラスは国内外で活躍するオペラ歌手によって結成された「歌人三昧サマディ」で、山下は「歌人三昧サマディ」のために楽曲提供した縁があり、今回、彼らの存在がコンサート実現へ向けての大きな原動力となったという。
当日は、山下がこれまでに紡いできた名曲の数々が、自身のタクトによって演奏され、時に雄大、時に繊細な音楽世界に多くの聴衆が聴き入った。いわゆる劇伴音楽は、スタジオの限られた時間の中、多い時には50~60曲単位の楽曲がクリック(ガイドリズム)に従って演奏されるのが通例であり、正直、そこに演奏の妙味や表現を加味して行く余地はない。今回はそうした制約から解き放たれ、山下の楽曲が本来持つべき姿、生演奏ならではの醍醐味を存分に感じ取ることができた。オーケストラの編成自体は、スタジオとほぼ同規模で決して大きくはなかったが、これが実に良く鳴る。山下といえば、オーケストラ編曲の分野でも各方面から高い評価を受けているが、その仕事を肌で知るまたとない機会ともなった。また、録音を前提とした劇伴では、シンセやエレキギターをオケに被せる場合もあるが、コンサートでやるとなるとPAが必須のこれらをオミットし、あくまで生音に拘ったことも正解であったと思う。
今回、何より注目に値したのが歌声の持つ力である。コンサートの開幕を飾った、堺裕馬のバリトンソロが掴みとなる合唱曲「Daybreak」(2021)をはじめ、トランペットとサックスを内山有紀(ソプラノ)と下村将太(テノール)に置き換えて披露された『美の巨人たち』のエンディングテーマ「エターナルストリー」(2012)、吉田美咲子(ソプラノ)、豊島ゆき(メゾソプラノ)による『ドラえもん のび太の太陽王伝説』のエンディングテーマ「この星のどこかで」(2000 ※作曲は大江千里)と、多彩な楽曲と声の魅力に引きこまれた。
そして、レコーディングでも歌人三昧サマディが歌った劇中歌「Timeless Story」を含む、『仮面ライダーセイバ―』(2020)は、コーラスとオーケストラが混然一体と化し、作品が持つスケール感を見事に描き切った。通常、オーケストラの公演では、オーケストラが「主」で、コーラスは「従」であるが、今回は敢えて言うなら、どちらも「従」であり、公演タイトルに「コーラスとオーケストラの世界」と、銘打たれていたことにも納得のいくものがあった。
その他、サントラ未収録曲も含む『ちはやふる』、ゲストの中川英二郎のトロンボーンも冴え渡った『瞳』のメインテーマ、全6曲を通じて壮大なドラマ性を伝えた『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011)、また『花より男子』(2005)での、憂いに満ちた美しい旋律もまた心に響いた。
映像音楽、特にテレビの劇伴は、なかなか表に出難いジャンルである。番組のHPを見て「音楽」をクリックしても表示されるのはたいてい主題歌であり、劇伴の作曲家はスタッフの一覧に表示されているに過ぎない。また、あらゆる映像作品には当たり前のように音楽が付いているが、それ故に音楽の重要性がなかなか外部には伝わらないという、ある種のジレンマも抱えている。業界では引く手あまたであり、数々の代表作を持つ山下もまた、単体では取り上げ難い作曲家であったことも想像に難くない。しかしながら、山下のあまりある才能に着目し、大規模なコンサートが実現されたことは、大変意義のあることである。まずはそのことにエールを送りたい。この機会に山下康介の存在、そして彼が紡いできた数々の名曲に今一度、注目が集まることに節に期待したい。
トヨタトモヒサ
◎主催・企画:合同会社P&ME 鷲尾裕樹
https://p-and-me.com/
◎ゲーム・メディア音楽専門・本格オペラ歌手によるクラシカルサウンド集団
『歌人三昧サマディ』Utabito Zanmai Samdy
国内外の舞台で活躍するオペラ歌手たちが集結。心を震わす本物の声で、ゲームやアニメーションなどのメディアをさらに高みへと押し上げることをコンセプトに発足した本格クラシカルサウンドコーラス。
代表曲「仮面ライダーセイバー」より『Timeless story』