これまで多くの伝統芸能公演を制作、上演してきた国立劇場は、再整備期間中も伝統芸能の振興のため、都内各劇場にて主催公演を続けています。昨年12月に国立劇場主催公演の新たな一歩を踏み出した足立区・北千住のシアター1010(センジュ)にて再び開催する文楽公演で、文楽を代表する大名跡「豊竹若太夫」が57年ぶりに復活します。
初代は十八世紀初めに竹本座とともに今日の文楽の礎を築いた豊竹座の祖として活躍しました。
このたび襲名披露する十一代目は、昭和前期に豪快な語り口で知られた十代目の孫で、現代を代表する太夫の一人。初代が初演し、十代目も襲名披露狂言とした『和田合戦女舞鶴』に挑みます。
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襲名披露は『寿柱立万歳(ことぶきはしらだてまんざい)』で幕開き
大正4年(1915)10月、御霊文楽座初演『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』八段目「道行旅路の嫁入(みちゆきたびじのよめいり)」に挿入された引き抜きの場面として初演されました。家屋を建てる際に初めて柱を立てる儀式である“柱立”を題材とした常磐津(ときわず)『乗合船恵方万歳(のりあいぶねえほうまんざい)』を義太夫節に移した作品で、太夫(たゆう)と才三(さいぞう)が、門口で小鼓と扇を手に柱立を披露し、家々の繁栄を祈りつつ、賑やかに舞います。襲名披露公演の幕開きにふさわしくおめでたい一幕です。
「豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露口上」
新・若太夫を中心にゆかりの技芸員が舞台に並び、お客様にご挨拶の口上を述べます。
襲名披露狂言『和田合戦女舞鶴(わだかっせんおんなまいづる)』
元文元年(1736)3月に大坂豊竹座で初演された時代物浄瑠璃(じょうるり)です。作者は、後に三大名作と呼ばれる『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』の合作者のひとりで、『一谷嫰軍記(いちのたにふたばぐんき)』の執筆半ばで逝去した並木宗輔(なみきそうすけ)(千柳(せんりゅう))です。
鎌倉幕府三代将軍源実朝(みなもとのさねとも)の時代に起こった、北条(ほうじょう)氏が和田(わだ)氏を滅ぼした和田合戦の勃発を、未然に防ごうと働く人々の悲劇を描く五段の物語で、「市若初陣(いちわかういじん)の段」は三段目に当たります。名高い女武者の板額(はんがく)は、主君の忘れ形見の命を助け、夫の意図を悟り、初陣に手柄を立てたい息子市若丸の望みをかなえるために苦悩します。一人の女性として選択を迫られる板額の姿、そして晴れて手柄を挙げた市若丸を称えて人々が見送る場面が聴きどころ・みどころとなります。
外題の女舞鶴は、和田合戦で門破りをして勇名をとどろかせた朝比奈義秀(あさひなよしひで)を女性に置き換えたことを示しています(舞鶴は朝比奈の紋)。
(これまでのあらすじ)
北条氏と和田氏は前将軍頼家(よりいえ)から妹の斎姫(いつきひめ)を妻に賜ることになっていたと共に主張していましたが、姫は公家と恋仲でした。北条と和田の反目を利用しようとする藤沢入道(ふじさわにゅうどう)が姫を館に預かりますが、姫の乳母の子息荏柄平太(えがらのへいだ)は姫に横恋慕をした挙句、姫を討って姿を消します。御家人の浅利与市(あさりよいち)は藤沢の館に入ろうとしますが、妻の板額が平太の従妹に当たるとして入場を拒まれたため、妻を離縁します。板額は大力を振るって館の門を破り、与市は館に入ります。
【市若初陣の段】平太の妻綱手(つなで)は息子の公暁(きんさと)とともに実朝の母尼公(あまぎみ)(北条政子(ほうじょうまさこ))の館に匿われています。平太の妻子を匿う母の館に、実朝は御家人の子供たちを武装させ派遣します。館を守る板額は、抜け駆けした息子の市若丸と再会します。市若丸の兜の忍び緒が切れているのを見つけた板額は、夫与市の意図を推量しかねます。後に尼公は公暁こそ頼家の忘れ形見で、実朝の後継者にするために平太夫婦の子として密かに育てさせていたと告白します。尼公に公暁の命を助けるように懇願された板額は、与市のはかりごとを理解し、市若丸が平太の実子で、平太が市若丸を取り返しに来たと市若丸に思い込ませます。市若丸は、自分が主人を殺した者の子と聞き、武士として誇り高い最期を遂げようとするのですが……。
初代若太夫が初演し、十代目が襲名披露狂言に選んだ代々の若太夫ゆかりの演目に、十一代目が新たな生命を与えます。ご期待ください!
34年ぶりの上演となる「道行涙の編笠(みちゆきなみだのあみがさ)」を含む『近頃河原の達引(ちかごろかわらのたてひき)』
自分を陥れようとした武士を殺(あや)めてしまった伝兵衛(でんべえ)、恋仲の伝兵衛を案じるおしゅん、二人が心中することを恐れるおしゅんの母や兄与次郎(よじろう)。京・堀川の貧家で、心温まる家族の思いやりや恋慕の情が交錯します。おしゅんの切々としたクドキ、おしゅん伝兵衛の門出の祝いに奏でられる猿廻しの曲と、印象的な場面が続きます。また、おしゅんと伝兵衛の二人が手を取り合って死出の旅立ちをする「道行涙の編笠」は34年ぶりの上演、この美しくも哀切な調べも聞きどころです。
令和元年以来の二部制ならではの本格上演は、時代物の名作『ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)』
『ひらかな盛衰記』は、『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』のいわゆる“浄瑠璃三大名作”と並ぶ名作として知られる時代物浄瑠璃です。木曾義仲(きそよしなか)の敗北とその残党の後日譚と、「宇治川先陣争い」、「箙の梅」で知られる風流武士・梶原源太景季のエピソードを二つの柱としています。今回は初段、二段目、三段目からの上演で義仲の出陣から、敗死した義仲の妻子たちの流浪、献身的な忠臣たちの苦闘を描きます。昭和63年以来長らく上演が途絶えていた「楊枝屋(ようじや)の段」も交え、半蔵門の国立劇場でもコロナ禍の影響で実現出来なかった名作の本格上演をお楽しみください。
【義仲館の段】木曾義仲は朝敵となり、源義経率いる鎌倉勢の攻撃を受けます。義仲は正室の山吹御前(やまぶきごぜん)と駒若丸(こまわかまる)を腰元お筆(ふで)に託し、愛妾・巴御前(ともえごぜん)と出陣します。
【楊枝屋の段】粟津での戦で義仲は敗死し、山吹御前一行はお筆の父・鎌田隼人(かまたはいと)の貧家に身を隠します。そこへ鎌倉方が押し寄せますが、隼人の機転で切り抜けます。悲劇の中のユーモラスなやりとりが光る場面です。
【大津宿屋の段】山吹御前一行は大津の宿屋に一泊し、順礼の船頭権四郎(ごんしろう)一家と知り合います。そこへ落人狩りの武士が襲いかかります。
【笹引の段】混乱の中、駒若丸と取り違えられた権四郎の孫・槌松(つちまつ)が殺されます。騒動で隼人と山吹御前は死に、駒若丸は行方不明、ひとり残された傷心のお筆が山吹御前の亡骸を笹に乗せて運ぶくだりは痛切な情趣が際立つ名場面です。
【松右衛門内の段】摂津福島に戻った権四郎は、取り違えた駒若丸を槌松と呼んで育てています。訪れたお筆は槌松の最期を伝え、駒若丸を戻すよう申し入れます。勝手な言い分に権四郎は憤慨し、駒若丸を孫の仇と意気込みますが、婿の松右衛門(まつえもん)が止めます。松右衛門こそ義仲方の猛将・樋口次郎兼光(ひぐちのじろうかねみつ)でした。樋口は権四郎の婿に入り込み、主君を討った義経に復讐する機会を窺っていたのです。孫を殺されて怒る権四郎に情理を尽くして説く樋口、勇壮な中に悲しみを湛えた人情の機微が心を打つ名場面です。
【逆櫓の段】船頭として海に出た樋口に鎌倉の大軍が迫ります。樋口は権四郎に裏切られたと憤りますが、権四郎も駒若丸を救済すべく一計を案じていたのでした。戦乱に打ち続く悲劇に義理と情とが絡む美しい人間ドラマが光り、物語は大団円を迎えます。
襲名披露に向けて新若太夫出演イベント開催決定!
西新井大師成功祈願&お練り
他劇場公演で行う初めての襲名披露ということで、関東有数の厄払いのお寺であり、会場となるシアター1010と同じ足立区に位置する西新井大師にて成功祈願を行います。それに先立つ西新井大師参道のお練りでは、皆さまへご挨拶させていただきます。さらに、ミニイベントとして西新井大師書院にて生演奏の義太夫節と実際の舞台と同じ人形で『二人三番叟』の実演も行います。ぜひこの機会に文楽を知っていただけましたら幸いです。
●開催日 令和6年5月6日(月・休)
●場所 西新井大師 (〒123-0841 東京都足立区西新井1丁目15-1)
●内容 13:30 西新井大師参道お練り(東武大師線大師前駅~西新井大師参道~西新井大師)
14:00 成功祈願法要(西新井大師本堂)
15:00 文楽『二人三番叟』記念上演(西新井大師書院、観劇無料)
北千住・シアター1010(センジュ)での本格的な文楽公演
老朽化などに対応する再整備事業のため、令和5年10月末日をもって初代国立劇場は57年の幕を閉じました。閉場後も他劇場にて主催公演を引き続き行っています。昨年12月に閉場後初の文楽鑑賞教室と中堅若手を中心とした文楽公演を行った北千住・シアター1010にて、いよいよ二部制の本格的な文楽公演を行います。
シアター1010は北千住駅に直結した「千住ミルディス」(北千住マルイ)の10階・11階に位置する総合文化施設です。演劇やミュージカルなどを上演するシアター1010に文楽廻し(床)を設置し、本格的な文楽の上演を行います。
北千住駅はJR線、東京メトロ日比谷線、千代田線、東武スカイツリーライン(半蔵門線直通)、つくばエクスプレスが乗り入れしており、都心からのアクセスも大変便利です。劇場は北千住駅直結の商業施設マルイの中にあり、また周辺には多くの商店街もあって、観劇後のお買い物やお食事も存分に楽しんでいただけることでしょう。
大型ターミナルでありながら、どこか懐かしいレトロな雰囲気を感じさせる街・北千住。ご観劇とともに、街の魅力に触れていただき、豊かなひと時をお過ごしください。
国立劇場 令和6年5月文楽公演
【 Aプロ】
寿柱立万歳(ことぶきはしらだてまんざい)
豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露口上
襲名披露狂言 和田合戦女舞鶴(わだかっせんおんなまいづる)
市若初陣の段
近頃河原の達引(ちかごろかわらのたてひき)
堀川猿廻しの段/道行涙の編笠
【 Bプロ】
ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)
義仲館の段/楊枝屋の段/大津宿屋の段/
笹引の段/松右衛門内の段/逆櫓の段
主催=独立行政法人日本芸術文化振興会
【公演日程】 令和6年5月9日(木)~27日(月)※15日(水)は休演
【料金[各部・税込]】
1等席 8,000円(学生5,600円)
2等席 7,000円(学生4,900円)
※障害者の方と介護者1名は2割引です(他の割引との併用不可)。
※車椅子用スペースがございます。
※インターネットでも学生料金・障害者割引による申し込みが可能です。
※残席がある場合、公演会場にて当日券のみ窓口販売いたします
(当日券窓口 午前10時~各部開演前)。
【会場】
シアター1010(センジュ) (〒120-0034 東京都足立区千住三丁目92番 千住ミルディスI番館10~11階)
●電車 千代田線・日比谷線・東武スカイツリーライン・JR常磐線・つくばエクスプレス〈北千住駅〉4番出口直結
●都営バス 駒込病院/熊野前/田端駅から(端44系)・
王子駅/千住桜木/小台町方面から(王45系)・
足立清掃工場/竹の塚駅/足立区役所から(北47系)
●東武バス 西新井大師/本木新道/本木小学校前から(北01系)・加平町/文教大学(東京あだちキャンパス)から(北11系)
■シアター1010には劇場専用の駐車場はございません。
公共交通機関をご利用ください。
国立劇場について
日本の伝統芸能の保存及び振興を目的として昭和41年(1966)に開場。外観は奈良の正倉院の校倉造りを模している。大劇場・小劇場・演芸場・伝統芸能情報館を備え、多種多様な日本の伝統芸能を鑑賞できる。初心者や外国人を対象とした解説付きの鑑賞教室も開催している。
老朽化による再整備事業のため、令和5年(2023)10月末に閉館。閉館後も都内各劇場のご協力により、主催公演を継続して上演している。
所在地:東京都千代田区隼町4-1
03-3265-7411(代表)
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