音楽パフォーマーこまつ擁する「HMC BAND」×濱口優率いる「ザ・アーリーヌードルズ」「技術」×「笑術」で魅せる下北沢の夜
イベントを企画したこまつによる冒頭のあいさつによれば、このイベントは、旧知の仲だった濱口と久々に再会したときに、彼がバンドを始めたことを知り、その練習スタジオが自宅の近くだったこと、さらに彼は「ぴょんぴょんバッタ」という曲をアイドルグループに提供したことがあったが、ザ・アーリーヌードルズにはぴょんぴょんとばったちゃんというメンバーがいた事も含め、縁を感じツーマンライブを企画したのだそう。
こまつによる「トップバッターはザ・アーリーヌードルズ!」の呼びかけで、ライブがスタート。なのだが、いきなりボーカル&ギターのキク↑↑が話し出す。「僕らのこと、観たことあるよっていう方、いらっしゃいます?」と早々に観客とコンタクトをとり、「名前だけでも覚えて帰ってください」と、漫才でも始めるかのような台詞を決める。このあたり、さすがは芸人!と唸らされてしまった。そんな調子で始まった1曲目「紹介ジャジャジャン」もすごい。バンドのメンバ―名をひたすらコール&レスポンスしていく。早々に観客を巻きライブ会場を自分たちの空気に変えていく手腕は見事の一言だった。
冒頭のこの場面が象徴しているように、ザ・アーリーヌードルズ(以降、アリヌと略)のライブは、観客をどんどん巻き込んでいく。「激」では“ハゲ”をテーマに激しく盛り上げ、「貴重品のうた」では“貴重品”のコール&レスポンスを巻き起こした。そもそもエアバンドとして結成されたということで、途中に“エアブロック”が用意されていたが、「リアルフォーティー」では、“ジャンピングつるつる”なる振付を一緒になって踊り、メンバーは客席を練り歩き、さらに観客のテンションを上げていった。
「僕ら、1曲ごとにしゃべります」と濱口(ステージネームはマサル!!)が語ったように、MCと曲を交互に繰り返していくのも彼らの大きな特徴。しかもグダらず、見事に転がっていく。
楽しんでもらいたいという気持ちはその演出にも表れており、「フライングヘアー」では、キク↑↑が回転するおもちゃを額に貼り付けて熱唱……おもちゃがうまく回転せず、なんだかカオスになっていたが。「リアルフォーティー」では、大晦日話題となった「紅白歌合戦」ゼッケン16番のけん玉チャレンジ失敗になぞらえて、ばったちゃんが“16”と書かれたTシャツでけん玉に挑戦。まったくやったことがないという彼女は、4度のチャレンジでようやく成功。「16番の気持ち、わかりました!」という名言で会場を笑わせた。
なんだかふざけてばかりいたように感じるかもしれないが、演奏も一生懸命取り組んでいたのが印象的。マサル!!が高速のドラミングで圧倒すれば、ぴょんぴょんが流麗なギターソロを聴かせる。タカマサのベースソロは……緊張感がひしひしと伝わってくるものだったが、本人は満足げな笑顔。ここもアリヌの大きな魅力で、失敗があっても、音楽が楽しくてしかたがないといった雰囲気にあふれており、観ているこちらも何だか楽しくなってくる。音楽とは、本来こういうものだったと改めて気づかされた。
後半は、こまつがキーボードで参加してセッションを披露。「Eliza」では、こまつともども激しいヘッドバンギングを繰り広げた。それは演奏後、みんな息切れしてしまうほど壮絶なものだった。
ラストはこまつが提供したという「満月のHAIR」。勇壮なこの曲を、やはり6人でしっかりと聴かせ、最後は全員でジャンプを決めて、ライブを締めくくった。
後攻のHMC BANDは、こまつの「最後まで楽しんでいってくれ! よろしく!」という絶叫から「気になる2人」に雪崩込み、そのライブの幕を切って落とした。こまつがファンキーなトランペットを響かせれば、細渕真太郎はメロウなギターで酔わせ、大野達哉がタイトなリズムを刻めば、萩原みのりは5弦のエレクトリックベースを、ウッドベースのように構えてプレイし、観客を煽っていく。続くハードな「ガンメンブロック」では、ベース、キーボード、ギター、そしてドラムの順でソロを回し、それぞれに見せ場を作った。
冒頭の2曲で、それぞれの技量の高さは十二分に発揮されていたが、上手いだけで終わらないのが、彼らのすごいところ。「楽しいからパクりたくなる」と、「紹介ニャニャニャン」としてアリヌの「紹介ジャジャンジャン」をカバー。こちらもコール&レスポンスで、観客と一体となって楽しんだ。
さらに「グッズのタオルの正しい使い方を教える」と前置きし、全員タオルで目隠しして「ルパン3世のテーマ80」をプレイ! この場面を観ていた濱口は「どんな枷や」と呆れていたが、何も見えない状態でタイトに演奏をきめる単純ながらすごいとしか言いようがない。何万回演奏した曲でも、手元が見えないと何だか不安になると思うのだが……。ちなみに、萩原は途中でタオルが取れてしまったが、目をつぶって演奏を続行。濱口いわく「そんなに律義にやらんでも(笑)」。確かにそうなのだが、そこはミュージシャンとしての矜持といったところだろう。
その萩原は「一番街」で大暴れ。笑顔でスラップをばりばりと轟かせ、ソロも見事に決めてみせた。ベースをフィーチャーしつつ、しっかりとまとまった4人のアンサンブルも鉄壁で、フロアから演奏を見守ったアリヌからは「あんな風にやりたい…」と感嘆の声が漏れていた。
こまつの「ここからが本番」という言葉から始まった後半戦は怒涛の展開に。「アンフィトルテ」は変拍子が続く難しい楽曲だが、こまつのトランペットがメロディアスに鳴り響くことで、耳馴染みが良く、決して難しい印象に終わらないアレンジが実に秀逸。その証拠に、変拍子ながらなんと踊り出す観客も! いやはや、なんともすごい光景を目撃してしまったが、それだけ楽曲自体にも、その演奏にも身体を衝き動かす説得力があったということなのだと思う。そのまま宇宙をイメージしたというバラード「グラビティ」へとつなぎ、叙情的なギターと、荘厳なトランペットが感動的な音楽世界を作り上げた。
さらに、これまた宇宙がテーマだという「リベレーター」へ。こまつが「メンバーを一番困らせた曲」と解説していたが、なるほど、めまぐるしく展開していくアレンジは、演奏者泣かせかも。しかし、4人はそんな難曲も楽しそうにプレイしてしまう。特に、「ぶち上がれ!」「上がれ~!」とこまつが煽る度に、演奏が加速度を上げていくさまは、見ていて実にスリリングだった。
「最後は盛り上がる曲を」と、ファンキーなアッパーチューン「カーニバル」を、会場の手拍子とともに大熱演。こまつは、トランペットを吹きながらキーボードも弾きこなしていたが、あまりにもさりげなく演奏してしまうので、何だか当たり前の光景に思えてしまった。こんなことができるのは、彼以外にあり得ないのだが。最後が大きな拍手が、彼らの熱演を讃えた。
HMC BANDとしてのライブは、ここで一旦終了。続いてアリヌからばったちゃんとぴょんぴょんを迎えてセッションすることに。アリヌの男性メンバーから「頑張れ!」と声援が飛ぶ中、こまつが作ったアリヌのナンバー「満月のHAIR」を、こまつのボーカルで披露。達者なHMCの演奏に、バッタちゃんとぴょんぴょんが食らいついていくといった感じで、なかなかに感動的な場面となった。ぴょんぴょんは演奏前に「必死に練習したことが伝わってきて嬉しかった」とこまつから声をかけられ、その時点で感極まっていた様子だったが、演奏し終えると涙が溢れているように見えた。
最後は全員集合してアリヌの「リアルフォーティー」を、リアル演奏バージョンで。オケとは違う分厚い生演奏に乗って、観客ともども“ジャンピングつるつる”を一緒になって踊りまくり、盛り上がりがピークに達する中、この日のツーマンは、大団円となった。
持ち前のショーマンシップを発揮し、観客を大いに沸かせたザ・アーリーヌードルズ。高いプレイヤビリティーと、幅広い音楽性で観る者を存分に惹きつけたHMC BAND。歌モノとインストという違いもあり、両者は正反対の方向性を持つバンドだとは思うが、ライブ中にこまつが「一周まわってバランスがめっちゃ良い!」と言っていたように、実は相性の良いツーマンだったように思う。それは、音楽を楽しもうというマインドが共通しているからではないだろうか。どちらもバンドも、本当に楽しそうに演奏していたし、また、それが観ている観客にも伝わり、フロアも実に楽しそうだった。音楽の理想的な連鎖が生まれた素晴らしい一夜だったように思う。観客からはアンコールの声が上がったが、時間の関係でこの日は実現しなかった。ぜひとも、2度目の共演でこの夜の続きを見せてほしい。
<インタビュー>
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■ザ・アーリーヌードルズ
――ライブを終えた率直な感想を聞かせてください。
マサル!!「めちゃめちゃ楽しかったです。楽しくてしゃべりすぎてしまいました(笑)」
――お客さんを巻き込んで盛り上げていく手管は、さすが芸人バンドという感じで見事でした。
マサル!!「そこはエアバンド時代に培ったものです。当然、演奏していなかったので、やることがなくて。しゃべるか踊るかしかなかったんですよ。それに、僕ら基本的にアウェーなんで」
ぴょんぴょん「そうなんですよ。ホームっていう感じがいつもなくて」
マサル!!「それでもバンドになってからは、応援してくれる方々が前に来てくれるようになったんですけど、エアのときは他のバンドのお客さんの前でやるっていう感じでした」
ばったちゃん「そういうところで頑張ってやってきた結果が、こういう形になったんだと思います(笑)」
――お客さんの前で演奏するのは楽しいですか?
マサル!!「楽しいよね?」
ぴょんぴょん・ばったちゃん「楽しいです!」
マサル!!「毎週金曜日に配信していて、画面の向こうのお客さんにはアピールしているんですけど、目の前にお客さんがいるのは違いますよね。わかるもんね、楽しんでくれているのとか、初めてでちょっと戸惑っているのとか。今日はめっちゃ楽しんでくれてたな」
ばったちゃん「後ろの方まで盛り上がってくれて」
――スーツを着ていた男性が楽しそうに踊っていましたよ。
ぴょんぴょん「めっちゃ嬉しい!」
マサル!!「嬉しいなあ」
ばったちゃん「踊ってくれるのは嬉しいですよね」
――こまつさんとも共演しましたけど、いかがでしたか?
マサル!!「音と音の間を埋めてくれるんですよ。バンドの音にぐっと厚みが出るんですよね。自分が上手くなった気がするよね。俺ら、売れるんちゃうかって(笑)。ほんとすごいです。配信に来てくれたときも、一緒にやってくださいよって言ったら、すぐに上手に入ってきてくれて。僕らがプロだったら、そんなこと言えないと思うんですよ。ぴょんぴょんは作曲をするんですけど、他のメンバーは、このバンドで音楽を始めたっていうくらいのレベルなんで、よくわかっていない(笑)。無知だからそういうむちゃぶりもできちゃう」
ぴょんぴょん「怖いですよね(笑)」
マサル!!「怖いもの知らずなんです(笑)」
――結果、見ている方も楽しかったので、無知で良かったと思います。
マサル!!「ほんとですよね。普通に考えたら、こまつさんは僕らと同等にやるレベルの方じゃないですから。一緒にやってみると、びっくりしますよ、すごすぎて」
ぴょんぴょん「リハーサルで見入っちゃいました(笑)」
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■HMC BAND
――ライブを終えた率直な感想を聞かせてください。
こまつ「楽しかったです。もともとイベントを企画するのは好きじゃないんですよ。大変だし、対バンのときも他のバンドを観る余裕がなかったりもするんで、そんな自分がイベントをやってもねって思ってて。今回は、ゆかりのあるバンドだったから出来たっていうのはありますね。結果、みんな楽しんでくれたから、ほんとによかったです。僕にとっては特別な1日になりました」
細渕「自分は川越でライブハウスをやっているんで、HMC BANDは川越での活動も多いんですけど、今年は10周年で外に出てきたというか、、こうやってこまつが企画をやってくれて、下北沢でライブができたり、いろいろグッズもできたりして、なんだか、新しいスタートになったような気がします。実りのある1日になりました。今年はわくわくすることがたくさんありそうだなって思いましたね」
――とても相性が良いツーマンだったように思います。
こまつ「良かった! 全員むちゃくちゃ良い人なんですよ。これは持論なんですけど、演者の性格ってお客さんに出ると思っているんです。演者の性格が悪いとお客さんも……そういう例をたくさん見てきたよね」
細渕「そうだね」
こまつ「まあ、自分のことを良い人だとは思わないですけど、みんなは良い人なんで、お客さんも良いお客さんだろうなって思っていました」
――どちらのバンドのお客さんも、どちらのライブも楽しんでいるみたいで、雰囲気がすごく良かったように感じました。
細渕「そうですね。すごく良かったですよね」
こまつ「何ならアリヌとHMCって真逆じゃないですか。スタイルも音楽性も。でも交わるって、ちょっと新しいことなんじゃないかって思いました」
細渕「それってすごいことだよ。ツーマンって普通は同じ方向性、似たキャラクターのバンドを揃えがちだから。でも、今日は真逆だったけど、ここにいたお客さんは、すごく一体感を感じたと思うし、音楽的な違いは置いておくとしても、同じ楽しさを体感したと思う。さっき話に出た人から出る力みたいなものを感じました」
――変拍子で踊っている人もいたんですけど、気づいていましたか?
こまつ「まじか、すごいなって思いました。あの曲は音源が出ている曲ではないのに、なんで踊れるの?って」
細渕「もしかしたら、初めて聴いたリズムなのかも。だからこそ、初めての身体の動きで、リズムを感じていたんじゃない?」
こまつ「そうかもね(笑)。でも、1回集中力を持っていかれたよ。“えっ?”って気になっちゃって」
――目隠し演奏するというパフォーマンスもありましたけど、あれは練習しているんですか?
こまつ「昔ネタとして動画に上げたんですよ。久々にやってみたら大変でした(笑)」
――見ないで演奏するって、純粋に難しいですよね。
こまつ「そう。だからわかりやすいかなと思って。視覚がないぶん、すっごく集中するよね。あれでスイッチが入った部分もあるよね」
細渕「音だけ聴いているから、みんなすごく集中してたよね。それが伝わってきて、目隠ししながら演奏していて、中盤からむちゃむちゃ楽しくなったよ」
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【HMC BAND】
<メンバー> 左上から時計回りに
Ba 萩原みのり(はぎわら みのり)
Gt 細渕 真太郎(ほそぶち しんたろう)
Tp・Key こまつ
Dr 大野達哉(おおの たつや)
<略歴>
2013年結成。リーダーの細渕がやっていた音楽教室でのイベント企画にて、特別ゲストとして一時結成したのがキッカケ。HMCの意味は、H=ほそぶち M=ミュージック C=クラス。
■2014年 1st mini album『Lyle』を全国リリース
■15000人を動員したイベント『東京レインボープライド』メインステージ出演。
■埼玉を中心に全国で活動展開。川越にて『おとまち小江戸夏祭り』を2年連続で開催。
累計約6000人を動員。
■YouTubeに投稿した動画では、弾いてみた動画が100万再生超え。
■ネクソン オンラインMMOマビノギパーティー2021年出演
<SNS>
YouTube https://www.youtube.com/@hmcband847
HP https://hmcband.wixsite.com/hmc-hp
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【ザ・アーリーヌードルズ】
<メンバー> 左から
Ba・Co タカマサ
Vo・Gt キク↑↑
Dr(リーダー) マサル‼︎
Gt(楽曲制作) ぴょんぴょん
Sa・Co ばったちゃん
<略歴>
2012年 エアーバンドグループ「禿夢」としてデビュー
2021年 バンド体制を「ザ・アーリーヌードルズ」に改名
<SNS>
YouTube https://www.youtube.com/user/HAGEYUMETV
ブログ https://ameblo.jp/hageyume/
取材・文 竹内伸一
撮影 geta