小津安二郎監督作品の魅力とは?黒沢清など世界的に活躍する3人の監督が小津を語り尽くすシンポジウム開催!アフターイベントでは『PERFECT DAYS』出演者・関係者によるスペシャルトーク&ミニライブも
この度、ラジオ局J-WAVE(81.3FM)は、第36回東京国際映画祭とコラボレーションし、小津安二郎生誕120年を記念した特別企画を実施いたしました。映画祭期間中の10月27日(金)に開催した<小津安二郎生誕120年記念シンポジウム“SHOULDERS OF GIANTS”>と<アフターイベント:小津安二郎生誕120年記念企画“SHOULDERS OF GIANTS”J-WAVE 公開収録>のレポートをお届けいたします。
シンポジウムでは、黒沢清監督、ジャ・ジャンクー監督、ケリー・ライカート監督、そして東京国際映画祭のプログラミングディレクターの市山尚三が小津作品についてそれぞれの視点で考察。小津作品の魅力に迫りました。直後に開催されたアフターイベントでは、小津作品を敬愛してやまないヴィム・ヴェンダース監督最新作で、映画祭オープニング作品でもある『PERFECT DAYS』で共同脚本・プロデュースを担当する高崎卓馬(クリエイティブディレクター)、同作に出演する松居大悟(映画監督)、長井短(俳優)らによるトークと、劇中歌を歌う金延幸子のミニライブをお届けしました。途中、サプライズでヴィム・ヴェンダース監督がサプライズで登壇し、イベントを盛り上げました。
なお、シンポジウムと公開収録の模様は11月3日(金・祝)18:00~21:55に放送の特別番組『J-WAVE SPECIAL SHOULDERS OF GIANTS』でご紹介。なぜ世界は小津安二郎に惹かれつづけるのか、私たちは彼から何を学び、どこへ向かうべきなのか。小津安二郎の魅力を様々な角度でたどる4時間のスペシャルプログラムです。どうぞお聴き逃しなく。
【radiko】
https://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20231103180000
※11/3(金)18時から1週間聴取可能
■番組概要
放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:J-WAVE SPECIAL SHOULDERS OF GIANTS
放送日時:2023年11月3日(金・祝)18:00~21:55
ナビゲーター:クリス智子
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小津安二郎生誕120年記念シンポジウム“SHOULDERS OF GIANTS”レポート
映画『晩春』『東京物語』等の名作で知られる日本が誇る映画監督、小津安二郎。現在都内で開催中の第36回東京国際映画祭では、10月27日に小津安二郎生誕120年記念シンポジウム “SHOULDERS OF GIANTS”を開催。黒沢清監督、ケリー・ライカート監督、ジャ・ジャンクー監督らが参加した。
シンポジウムの前には、郊外の新興住宅地を舞台にした映画『お早よう』(1959年)が上映された。黒沢監督は「住宅地という限定されたシチュエーションに加えて、均一的な映像演出と同じ構図の中でドラマが繰り広げられる。それに反して疑心暗鬼と誤解と断絶の物語がギリギリの一触即発状態でスリリングに展開する」と絶賛し、ライカート監督は「均等な色彩、構図、衣装、セット、背景、その一コマ一コマが絵画を見ているようで美しい。私はメロドラマの名手として知られるダグラス・サーク監督のことを思い浮かべた」とハリウッドの巨匠との共通点を感じていた。
一方、ジャ監督は「テレビが欲しいということを巡る子どもたちと大人の物語だが、人工知能全盛の現代にもし小津監督が生きていたら、ロボットを家庭に導入する物語を描いたはず。タイトルはきっと『こんばんは』になるだろう」とユーモア交じりに小津の先見の明をリスペクトしていた。
大の小津監督好きという、黒沢監督、ジャ監督、ライカート監督の3名。それぞれがマイ・フェイバリット・小津ムービーをピックアップ。黒沢監督は『宗方姉妹』(1950年)、ジャ監督は『晩春』(1949年)、ライカート監督は『東京物語』(1953年)と『彼岸花』(1958年)を挙げた。
黒沢監督は『宗方姉妹』について「小津映画といえば、物静かでゆっくりで日本の滅びゆく古い家族関係を温かい目線で描いていると語られがちだが、戦後の小津映画を俯瞰してみると必ずしもそうとは言い切れない。例えば『宗方姉妹』。批評的にも興行的にも失敗した作品だが、小津監督のダークな欲望が垣間見られる映画で、小津映画によくある、最後に丸く収める人物は登場せず、人間同士が最後まで理解し合えない物語になっている」異色作だと紹介した。
黒沢監督は、節子(田中絹代)の夫・三村亮助(山村聡)に触れて「夫婦らしい会話も交わさないし、節子が経営するカフェで暴れたり、節子を呼びつけていきなり離婚を切り出したり、ここまで凄まじく断絶した夫婦関係を映画で見たことがない。しかも無防備な節子に対して平手打ちを7発も喰らわす。断絶した人間関係が暴力に転じていく瞬間を嬉々として描いているようで、小津監督のどす黒い欲望を感じる」と分析した。
多面的な顔を持つ小津監督の作家性について、黒沢監督は「小津監督は温かい人間ドラマを作る一方で、人間が無言で見つめ合っているだけで理解できるなんてとんでもないという矛盾も抱えていたはず。理解できないから暴力に変わり、それが戦争に繋がっていくのだと。戦争があったことを忘れて、さも人間を理解しているかのような顔でいる大衆に対して嘘っぱちだと突きつけた。小津監督は、そのような感情に突き動かされた作品を時々作っている。それが小津映画の豊かさだとも言える」と述べた。
学生時代に小津映画に出会ったというジャ監督は「長い期間に渡って日本の経済的変化を背景にドラマを見せる点が小津映画の魅力。『晩春』には個人的な失望や悲しみが凝縮されていて、家族の関係性の変化で見えてくるのは、家族関係の中にあった温かさとは、実は束縛であったという事実。濃密な関係とは結果的に破滅へと向かうのだと。その鋭い視点に私は胸を打たれた。そして『晩春』は映画美学としても素晴らしく、セリフや動作に日常生活の魅力が盛り込まれている。これは言葉や文学では表すことのできないもので、小津監督はそれを見事なまでの映画言語で表現。言葉を超えたものを見せつけられた気がした」と小津監督ならではのセンスに脱帽していた。
一方、小津監督作を晩年から初期にさかのぼる形で鑑賞したというライカート監督。「初期の小津作品はせわしなくたくさんの要素が溢れているが、晩年になると様々な要素がそぎ落とされ、同じ俳優が同じセットで喋る。こんなに少ない要素でたくさんのことを語っていることに私は驚いた。さかのぼって観ることで演出スタイルの変化を発見できたのはとても面白い経験」と報告した。
そんなライカート監督は、小津監督作で描かれる女性の置かれた状況にもビックリしたらしい。「小津監督は結婚という形態にこだわっているのか、小津映画を観るとお嫁さんばかり出てくる気がした。しかも女性は思ったことを口にせず、意思決定者ではない。アメリカ映画では女性の不満が出てくるものだがそれがない。そこに文化的違いを感じた。最も驚いたのは、夫が脱ぎ捨てた洋服を後からついてきた妻が拾うという描写。男性は傍若無人で女性は静かという構図で、アメリカでは絶対に考えられないものだった」と苦笑い。
夫の投げ捨てた洋服を拾う妻という昭和的亭主関白描写について黒沢監督は「実際にそのようなことをやっている人もいたかもしれないけれど、小津監督は皮肉を込める形であえて描写したところもあるかもしれない」と推察していた。
(文:石井隼人)
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アフターイベント:小津安二郎生誕120年記念企画“SHOULDERS OF GIANTS” J-WAVE 公開収録レポート
10月27日、コレド室町テラスにて「小津安二郎生誕120年記念企画“SHOULDERS OF GIANTS”J-WAVE 公開収録」が行われた。当日は、今年の東京国際映画祭のオープニング作品『PERFECT DAYS』で、ヴィム・ヴェンダース監督と共同脚本・プロデュースを担当した高崎卓馬、作品に出演した松居大悟、長井短が登壇。直前まで三越劇場で行なわれていた小津安二郎監督の『お早よう』の上映と小津安二郎さんの作品について語るシンポジウムのアフタートークという形で開催された。
最初に登壇した高崎は東京国際映画祭のオープニング作品『PERFECT DAYS』を上映したことを受けて「映画祭だと、見た人の反応が見れるので楽しい」と一言。高崎にとってヴィム・ヴェンダース監督は映画製作をするきっかけとなった人だそう。『PERFECT DAYS』の撮影秘話や、ヴィム・ヴェンダース監督への想いを噛み締めるように語った。
その後、本作に出演した長井短と松居大悟が登壇。長井はこの日、小津監督の「非常線の女」をイメージしたという黒と白でクラシカルにまとめたドレスで登場。華やかにイベントを彩った。レコードショップの店員を演じた松居は「撮影が通い慣れた下北沢ではあったんですが、そこにヴェンダース監督と役所広司さんがいるのは不思議でした」と撮影エピソードを語り、撮影中のエピソードを興奮気味に語った。
作品への出演が決まった際は「本当に言ってます?」と驚いたと長井。撮影が始まるまではドッキリだと思っていたと話した。ちなみに、ロケ地は長井にとっても馴染み深い場所だったとのこと。その後、三者は本作に出てくる好きな東京の風景を語り、3者から見た『PERFECT DAYS』の魅力を時間いっぱい語り合った。
そして、実は会場に居合わせたヴィム・ヴェンダース監督が高崎の呼び込みでステージに。「隠れていたんだけど、見つかっちゃったな」とお茶目に語った。また、今回の作品について「最初は映画ではなく、日本のトイレのドキュメンタリーを取ろうかと思って始まった」と経緯を説明。さらに、長井の食べっぷりがお気に入りのヴィム・ヴェンダース監督は編集をしながらも、撮影をしながらも笑ってしまったとのこと。松居については「天才的なレコードショップの店員だった」と評し、温かな雰囲気で撮影を振り返っていた。
さらに長井、松居からはヴィム・ヴェンダース監督に制作の根源となるような質問が。それに真摯に答える一幕に会場に集まった観客は胸を打たれる一幕も。本作、そしてヴィム・ヴェンダース監督の魅力を存分に堪能してほしい。
また、イベントの最後には劇中で楽曲が使用されたシンガーソングライター・金延幸子によるスペシャルミニライブも開催。晴れた夜空に囲まれた会場で、夜風にあたりながら彼女の演奏を楽しむ贅沢な時間を共有しあった。
最後に高崎は映画を映画館で見る魅力を熱弁。映画祭にふさわしいアフタートークとして締めくくり、公開収録は幕を閉じた。
(文:於ありさ)