国立劇場では、昭和41(1966)年の開場以来、全国各地の芸能(民俗芸能)を取り上げてきました。
民俗芸能とは、地域の暮らしの中で行われる祭礼や行事において人々が演じる歌や舞、踊、演劇といった芸能、またその祭礼や行事そのもののことで、その地域に暮らす人々が担い手となり、その地域の風土や信仰、歴史などを色濃く反映しながら、日本各地で今も受け継がれています。
民俗芸能には、その土地土地で生まれ、生活した人々の息吹が脈々と息づいています。しかし、過疎化・少子化、時代の変化による後継者不足や、自然災害や疫病などによる継続困難など、伝統を守る人々たちの苦労はいつの世も絶えることはありません。そのような中でも、人々は伝承を未来へつなげるために、日々努力し続けています。
民俗芸能は地域のお祭りや芸能として現地に行かなければ見ることができないものでした。が、国立劇場開場後は、これら民俗芸能を舞台芸術とは異なる発展・進化を遂げた日本の伝統芸能として捉え、劇場での上演を続けてまいりました。本公演は国立劇場再整備による本年10月末での閉場を控え、初代国立劇場での最後の民俗芸能公演となります。
過去からの伝統を基本とし、現代~未来へと時代を見据えて芸の伝承を続けている芸能を3団体をご紹介します。
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浦浜念仏剣舞 ~大震災を越えて受け継がれる鎮魂の舞~
岩手県沿岸南部、大船渡市三陸町に伝えられている剣舞です。
源義経が兄頼朝と不和となり、摂津国大物浦から九州に落ち延びようとした際、平家の亡霊に襲われたという逸話は、謡曲『船弁慶』や浄瑠璃『義経千本桜』でも取り上げられ、よく知られています。この剣舞もこの逸話がルーツです(諸説あり)。亡霊に襲われた時、武蔵坊弁慶が船べりを叩き、経文を読み上げて亡霊を退散させたという鎮魂の踊りで、踊り手が持つ棒ササラは、弁慶の経文の巻物を模したものとされています。
岩手に大きな勢力を誇った奥州藤原氏を頼って落ちてきた義経ゆかりのこの剣舞は、江戸中期に始まったものと推定されていますが、再興と休止、中断を繰り返しながら、昭和47(1972)年に浦浜青年会が復活させて、今に至ります。
念仏剣舞は、仮面を付けた念仏踊りの一つで、念仏和讃にのせて香炉を持ち、踊り手が焼香する儀礼的な作法や、阿修羅のごとく剣を振り、力強く激しく舞うところなどに特徴があります。
東日本大震災では甚大な被害を受けましたが、装束などが揃わない中、地元地域の鎮魂のために、被災の直後から活動を再開しました。大災害を越えて伝承を続ける鎮魂の踊りをご覧いただきます。
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チャッキラコ ~新しい世代に託す伝承~
チャッキラコは、毎年1月15日の小正月に三浦市三崎で豊漁・豊作・商売繁盛などを祈願する芸能です。チャッキラコにはその起源にまつわる二つの伝説があり、一つは海南神社の祭神藤原資盈(ふじわらのすけみつ)の奥方盈渡姫(みつわたりひめ)が庶民の娘に教えたというもの、もう一つは源頼朝が三崎来遊の際、磯にいた親子に舞を所望し、母親が唄い、娘が舞ったというものです。
現在の形のチャッキラコは江戸時代の中頃には成立していたことが文献に残されており、昭和51(1976)年に国指定重要無形民俗文化財に指定されました。また、平成21(2009)年にはユネスコ無形文化遺産に登録され、令和4(2022)年にも「風流踊」の一つとして登録されました。
大人の女性が音頭をとり、5歳から12歳ほどの少女たちが、赤い晴れ着姿で舞扇やチャッキラコ(綾竹)を持ち、可憐な舞を披露します。女性のみが伝承するというのが大きな特徴の芸能で、今も新しい世代の少女たちへと連綿と受け継がれています。伝統を引き継ぐ少女たちの姿をぜひご覧ください。
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芸北神楽「八岐大蛇」 ~時代とともに進化し続ける伝承~
広島県北西部(現在の安芸高田市など)の芸北地域は、神楽が盛んな場所としても有名です。
芸北神楽は秋の実りに感謝し、奉納する舞いに神話や伝説を取り入れて劇化したもので、島根県の石見神楽を源流に昔から伝承される「旧舞」に対して、戦後新たな趣向を取り入れて創作された「新舞」が定着しており、建物の落成式や結婚式などでも舞われ、人々の娯楽として広島のあちこちで親しまれています。
芸北神楽は、現代の観客の趣向に合わせて、よりスピーディーに、よりダイナミックに、“魅せる”演出に進化しているところが大きな特徴です。神楽の代表的演目「八岐大蛇」は、八頭の大蛇が所狭しと動き回る迫力のある舞台で、先日行われたG7サミットでも、広島県内の神楽団チームによる「八岐大蛇」が各国首脳の前で披露されました。
今回神楽を舞う原田神楽団は、安芸高田市の有志により結成された神楽団で、40年以上も活動を続けており、原田八幡神社において、夜を徹しての秋祭りの神楽を奉納し続けるなど、広島県の無形民俗文化財の認定を受け、広く神楽の発展と継承に努めています。
今もなお進化し続けている民俗芸能の迫力ある舞台をご堪能いただきます。
プレスリリースはこちらからダウンロードしてください。
https://prtimes.jp/a/?f=d47048-616-c02fee6b226692a5c162b280436a0b94.pdf
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初代国立劇場さよなら公演
6月民俗芸能公演
未来へつなぐ民俗芸能
東日本大震災からの復興
浦浜念仏剣舞
浦浜念仏剣舞保存会(岩手県大船渡市)
次世代への継承
チャッキラコ(国指定重要無形民俗文化財・ユネスコ無形文化遺産)
ちゃっきらこ保存会(神奈川県三浦市)
神楽の新たな姿
芸北神楽「八岐大蛇」
原田神楽団(広島県安芸高田市)
主催=独立行政法人日本芸術文化振興会
【公演詳細】
令和5年 6月17日(土) 午後2時開演(午後4時終演予定)
※休憩あり
国立劇場 小劇場(〒102-8656 千代田区隼町4-1)
【料金[税込]】
全席指定 5,000円(学生3,500円)
※障害者の方は2割引です。(他の割引との併用不可)
※車椅子用スペースがございます。
チケットのお求めは
国立劇場チケットセンター 0570ー07ー9900
国立劇場について
日本の伝統芸能の保存及び振興を目的として昭和41年(1966)に開場。外観は奈良の正倉院の校倉造りを模している。大劇場・小劇場・演芸場・伝統芸能情報館を備え、多種多様な日本の伝統芸能を鑑賞できる。初心者や外国人を対象とした解説付きの鑑賞教室も開催している。
所在地:東京都千代田区隼町4-1
03-3265-7411(代表)
「未来へつなぐ国立劇場プロジェクト」
明治以来の国立劇場設立構想からおよそ100年。
伝統芸能の保存と振興に取り組むため昭和41年国立劇場が誕生しました。
そして半世紀。
これは国立劇場が未来へ向けて新たな飛躍を目指す一大プロジェクトです。
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